コラム

個人事業主と法人の違いや、メリットとデメリットについて解説

2023.09.01

起業する時、個人事業主と法人のどちらを選ぶかで、設立にかかる費用や税務、法律上適用されるルールに関して、大きな違いがあるため、十分検討したほうがいいでしょう。

 

それぞれのメリットとデメリットを理解して、自分のビジネスプランに合った事業形態を選択することが大切です。

 

今回は、起業にあたって知っておきたい個人事業主と法人の違いや、メリットとデメリットについて解説します。

個人事業主と法人の違いとは

個人事業主と法人の違いについて見てみましょう。

個人事業主

個人事業主とは、法人を設立せずに個人で事業を営むことを指します。

 

税務署に、開業届を提出して事業開始の申請をすれば、個人事業主として独立したとみなされます。

 

例えば、飲食店であれば「○○カフェ」「○○軒」、サービス業であれば「○○不動産」といった屋号で営業することが多いです。

 

屋号とは、「株式会社」「有限会社」「合同会社」などがついていない店名や事業名のことです。

 

事業年度は1月1日から12月31日と決められており、確定申告の時期は翌年2月15日~3月15日です。

 

個人事業主は、確定申告で納める税額が決まります。

 

個人事業主が払う所得税は、累進課税のため、所得が低いうちは税額を抑えることができますが、計上できる経費の範囲が法人と比べて狭いです。

 

個人事業主と法人、双方とも、1,000万円を超えるまでは免税事業者となるため、消費税の支払いも不要になります。

法人

法人とは、会社や店などを立ち上げ、個人とは違う別の人格(法人格)として権利や義務の主体になる資格を与えられたものです。

 

法人は大きく分けると、私法人(民間法人)と公法人の2種類があります。

 

民間法人は、さらに2種類に分かれて、株式会社や合同会社などの営利団体と、NPOや一般社団法人といった非営利団体から成り立っています。

 

法人では、事業主(社長)が、事業で得た収入をが勝手に使うことはできません。

 

支払う税金は、所得税と法人税です。

 

法人は、「11月1日から翌年10月31日まで」といったように、1年を超えなければ事業年度を自由に設定できます。

個人事業主のメリット

個人事業主のメリットについて見て見ましょう。

開業手続きが簡単である

個人事業主は、手続きが簡単なことが大きなメリットです。

 

会社設立と異なり、たくさんの書類を用意したり、登記申請も不要で、税務署に開業届を提出すれば、個人事業主になれます。

 

また、開業届の提出に手数料がかからないため、コスト面でもメリットがあります。

コストがかからない

開業するために必要な費用がかからないことも、個人事業主のメリットです。

 

法人で開業すると、定款認証費用や登録免許税などが必要になり、大きな出費になります。

 

そのため、初めてビジネスをされる方でも、費用についての心配がなく、事業を始めることができます。

会計処理が簡単である

個人事業主のメリットとして、会計処理が簡単なことが挙げられます。

 

個人事業主の場合、税務申告を会計ソフトで処理することができるため、会計処理が心配な方は、会計ソフトを使うことをおすすめします。

利益が少ない時には税金の負担も小さい

個人事業主は、累進課税という制度で税額が設定されて、所得税を支払うため、利益が小さい場合、税金の負担が少なくなります。

 

累進課税制度とは、高所得者は多くの税金を払い、低所得者はある程度の税金を払うという制度です。

 

所得とは、「収益−必要経費」のことです。

 

そのため、売上があっても経費もかかっている場合、支払う税金が安くなります。

 

一方、法人は、赤字であっても、一定の税金を支払わなければいけません。

個人事業主のデメリット

個人事業主のデメリットについて見てみましょう。

社会的な信用が低い

社会的信用が低いことが、個人事業主のデメリットです。

 

銀行や取引先からすると、「株式会社」という名称が入っていることは安心感を覚えることができ、法人としか取引しない企業もあるため、事業運営に影響を及ぼす可能性があります。

 

また、社会的信用は、人材を採用する際にも大きく影響します。

 

求職者の多くは、安定していて社会保険がある雇用先が良いと考えているからです。

 

そのため、個人事業主は、人材採用面で、不利になることがあるでしょう。

資金を調達しにくい

社会的信用が低いと、金融機関からの融資を受けづらかったり、クレジットの審査が通りにくいことがあります。

所得が増えると税金の負担も大きくなる

所得が増えると税金の負担が大きくなることも、個人事業主のデメリットです。

 

個人事業主は累進課税制度で所得税の税額を確定させるため、所得が増えてくると、課税額も増えます。

 

そのため、個人事業主として事業を始めて、利益が安定したら、税制面で有利にするため会社を設立するケースが多いのです。

無限責任で個人負担が大きい

個人事業主は、無限責任のため、借りたお金や与えた損害について全ての責任を負います。

 

資産を費やしても返済できなければ、自己破産になる可能性があり、個人の資産を弁済に充てなければいけないため、大失敗をした時の責任が非常に大きいです。

法人化するメリット

法人化するメリットについて見てみましょう。

社会的な信用度が高い

銀行や取引先、従業員を採用する際にも、信用度が高いことが、法人化する大きなメリットです。

 

大手企業の中には、個人事業主よりも会社のほうが信用できると考えて、会社の形態でなければ取引しないこともあります。

 

また、求職者も安定的な雇用を求めて、個人事業主よりも会社での雇用を求める傾向があるため、優秀な人材を集める際に、会社が有利になります。

資金を調達しやすい

銀行などの金融機関からの融資を受ける際に、資金が調達しやすくなります。

 

また、会社は、株式の増資によって資金調達をすることができます。

 

増資は、返済不要な資金を調達できるため、財政基盤を強化するために活用できます。

給与所得控除の恩恵が受けられる

会社を設立すれば、役員報酬として給与を受け取ることができます。

 

役員報酬を経費として計上して、給与所得控除も使えます。

 

一方、個人事業主は、給与所得はなく事業所得になるため、経費に計上できません。

2年間消費税を支払う必要がない

消費税法が改正され、2年前の売上高、または前期の上半期の売上高と給与支払額がどちらも1,000万円超の事業者は消費税を納めなければいけなくなりました。

 

ですが、上記規定に当てはまらない、資本金1,000万円未満の中小企業では、消費税は免除になります。

 

個人事業主として創業し、2年後に個人事業主を廃止して会社を設立すれば、最長で4年間の免税を受けられます。

欠損金の繰り越しができる

収益が赤字だった時に、翌年に赤字を繰り越すことを「欠損金の繰越控除」と言いますが、法人化すると10年間繰り越すことができます。

 

「欠損金の繰越控除」とは、初年度50万の赤字であって、翌年70万円の黒字となったら、70万円-50万円=20万円となり、20万円しか課税されないというシステムのことです。

 

10年間繰越ができるのは、法人にとって、大きな節税になります。

固定資産が差し押さえられない

法人化すると、株主や共同経営者が存在するため、株の持ち分、出資金の範囲内で責任をとるため、会社の負債を返済する義務はありません。

 

一方、個人事業主が負債を抱えた場合、個人事業主が債務を返済しなければいけなくなり、支払いができないと、個人資産を差し押さえられます。

社会保険加入で優秀な人材を確保しやすくなる

社会保険に加入できるため、病気になった時や老後に手厚い保障があることは、大きなメリットです。

 

そのため、社会保険完備で従業員を募集すると、優秀な人材を確保しやすくなります。

決算日を自由に決められる

法人は、決算日を自由に決められるため、繁忙期と決算時期が重ならないように調整できます。

 

仕入れが多い月を決算月から外すと、棚卸が楽になります。

法人化するデメリット

法人化するデメリットについて見てみましょう。

設立に時間と費用がかかる

法人を設立するには、書類の提出、費用や資本金の準備をしなければいけないため、設立までに時間と費用がかかります。

 

一方、個人事業主は、開業届を税務署に出せば、すぐに事業を開始できます。

赤字でも税金を支払わなければいけない

法人は、赤字であっても、法人住民税の均等割りで支払わなければいけません。

 

一方、個人事業主は、累進課税制度が適用されるため、所得が少なければ、税金の支払いも少なくなります。

社会保険に加入しなければいけない

社会保険に加入しなければいけないこともデメリットの1つです。

 

社会保険に加入すると、保険料の支払いをする必要があります。

 

社会保険は、個人で加入する国民健康保険や国民年金と比べて、金額が少し高くなります。

会計処理が複雑になる

会社を設立すると、確定申告が複雑になるため、間違った申告をして、必要以上に多くの税金を納めてしまうことがあるかもしれません。

 

そのため、経営者の多くは、税理士に確定申告を依頼しています。

個人事業主と法人の選び方のポイント

法人化する場合、どのタイミングでするのがいいのでしょうか。

 

以下で見てみましょう。

年商で決める

年商が800~1000万円を超えたら、法人化をした方が節税メリットを得やすくなります。

 

法人を維持するのに、1年で30万円程度かかりますが、所得税よりも法人税のほうが安いため、ある程度の年商があるのであれば、節税して黒字化することができます。

事業主1人で事業を行えるかどうかで決める

事業を始めても、わからないことがあったり、忙しすぎる場合は、従業員や専門家を雇わなければいけません。

 

その場合、法人化して、会社を設立するといいでしょう。

事業拡大をするかどうかで決める

事業が軌道にのって、顧客が増えたので事業を拡大したいと思っているのであれば、法人化した方がいいでしょう。

まとめ

法人化するか、個人事業主として開業するかは、課税される所得額や今後事業を拡大させていくかで判断するといいでしょう。

 

個人事業主は、費用や手間がかからず、手軽に事業を開始できますが、事業を続ける上で、多くの制限があります。

 

そのため、利益や事業の成長に合わせて、法人化か個人事業主のどちらにするのか決めましょう。

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